平谷美樹「鍬ヶ崎心中」(小学館)
「こいつ、いつの間に書いてやがったんだ?」
平谷美樹氏の新刊を書店で見かける度、いつもそう思う。地元紙・岩手日報で連載していた小説「柳は萌ゆる」が完結したと思ってる間に、本書が書き下ろし。同時進行で書いてたんだろうか?
は、さておき。書店で見つけたときタイトルだけで即買いした。鍬ヶ崎は岩手県宮古市の地名、5年くらい宮古に住んでいたのでピンと来るものがあった。宮古の街は大まかに言うと、藩政時代に代官所があった狭義としての「宮古」と港町である「鍬ヶ崎」に別れていて。鍬ヶ崎が中継港・漁師町としての面もありつつ実は色町でもあって、港の周囲を山に囲まれた鍬ヶ崎の地形が遊女たちの脱走も阻んでくれる地の利もあった訳で。
そんな鍬ヶ崎と宮古湾海戦を組み合わせたら、そりゃドラマになるわ!
今回「おっ」と思ったのは、明治維新期の物語である本書に三閉伊一揆の影響があって。一揆の結果、意外と南部藩と住民の関係が良好になって住民は佐幕側だったこと。この辺が、重税を課して住民の恨みを買ってしまい戊辰戦争時には住民の協力が満足に得られず、武士だけで闘った面もある会津藩との違いなのかも。
それにしても身につまされるのが、主人公・七戸和麿の典型的な「理想に燃えた若者の末路」人生で。彼は長州藩が蛤御門の変の八つ当たりとばかりに、幕府が降服してもなお会津藩に無理難題を押し付けて戦わざるを得ない状況に追い込んでいるというに。他の東北の諸藩が奥羽越列藩同盟を結んでいながら、一丸となって会津を助けてくれない。そして我が藩、南部藩も日和見を決め込んでるなかで。
「会津の人たちを助けたい!」
その一心で。パッションだけで脱藩までして会津まで駆けつけたものの、結論からいえば脱藩しない方が。いや、官軍とのファーストコンタクトである白河口で戦死してたほうがよっぽど良かったと言い切れる悲惨な状況のなか。結局生き延びてしまった事が彼を苛めてしまい、やがて希死願望へと彼を駆り立ててしまう。
結局、一晩で読み切ってしまったので県南地方の方は読んでください!
あとそうそう、本書の帯コピーが「ネタバレしてますやん」物件なので是非手にとって確かめてほしい。オレもネタバレを言ってみると、鍬ヶ崎の地形が相当なミスリード物件。そういうオチになるとは、実際に住んでたくせに見抜けなかったなぁたまげたなぁ。
さて読了後、
「作品が多すぎてもう全部カバーしきれないけど、何か拾ってみんべ。」
とAmazonをチェックしたら戦慄が走った。
★マジか?コイツ本作の一月前にも一本出してやがった・・・。
→こいつ、いつの間に書いていやがった?
→もしかしたら、平谷美樹は10人くらいいるのかもしれない。
すまない。